コラム
2025年09月16日

CDE(共通データ環境)で建設現場の情報連携を強化——本格的な建設DXへ

現場の混乱はなぜ起こるのか?—情報共有の課題感

「昨日の変更が職人に伝わっていない」「古い図面で作業が進んでしまった」。
建設現場の監督や施工管理者であれば、一度はこうした経験をされたことがあるのではないでしょうか。多くの現場では、設計変更や進捗状況が正しく伝わらず、手戻りや調整が日常的に発生しています。

背景には、設計事務所はCAD、ゼネコンはBIM、協力会社は紙図面といったように、関係者ごとに異なるツールで情報を扱っている現状があります。図面や資料、写真が紙・メール・クラウドなどに分散し、最新版がどこにあるのか分からないという問題が繰り返し生じています。

「図面の最新版はどれか」「変更指示がいつ出されたか」といった基本的な確認に時間を要し、結果的に「必要な情報が必要な人に確実に届く」という、ごく当たり前に思える仕組みの確立が難しくなっているのです。

特に建設プロジェクトでは、一つの設計変更が全体工程に波及するため、正確かつ迅速な情報共有が不可欠とされています。しかし、関係者の多様化やデータ量の増大、リモート連携の増加により、従来のメールや紙ベースのやり取りでは限界が見えてきています。VPJの調査資料でも、情報共有の遅延や不整合が現場の大きな負担となっていることが指摘されています【1】。

こうした情報伝達の混乱が積み重なることで、現場の効率低下や品質トラブルにつながり、施工管理者の業務負担は一層増大しているのが実情です。

情報共有の混乱を生む根本原因

建設現場における情報共有の混乱は、単なる偶発的な問題ではなく、複数の構造的な要因が重なって発生しています。

  • ツールやフォーマットの非統一
    同じ図面がメール・クラウド・紙で複数存在するため、どれが最新版かが分からなくなるケースが頻発しており、VPJの調査でも情報の所在確認が業務時間の大きな負担となっていることが報告されています【1】。
  • 部門や企業間での情報分断(いわゆるサイロ化)
    発注者、設計者、施工者、協力会社と多様な関係者が関わるなか、それぞれが独自の管理方法で情報を保持しており、統一的な管理が難しい状況です。保存場所や承認フローが統一されていないことで、全体での一貫性が確保できません【2】。
  • 属人化
    「〇〇さんしか持っていない最新データ」や「現場で口頭で決まったこと」が文書化されず、担当者個人の記憶やファイルに依存する形で情報が管理されています。そのため、担当者が不在になると引き継ぎが困難になり、情報が途切れるリスクが生じます。

加えて、近年の建設業界特有の要因も混乱を加速させています。プロジェクトの複雑化(関係者数増加、工期短縮圧力)、デジタル化の過渡期による混在状態協力会社のDXレベル格差といった要因です。これらが重なることで、情報伝達の複雑性は従来より格段に高まっています。

このように、情報共有の混乱は「形式の不統一」「部門間の分断」「属人化」「近年特有の複雑化要因」が絡み合うことで発生しています。次に見ていくのは、こうした要因が実際の現場でどのような悪循環を生んでいるのかという点です。

悪循環の実態—手戻り・ミス・コスト増

情報共有の混乱は、現場の品質や工程に直接的な影響を及ぼすことがあります。
多くの現場で、従来なら十分な確認によって回避できていた施工ミスや材料発注ミスが、頻発するようになっています。最新版の図面が現場に届かず古い設計で作業が進んだり、変更指示が周知されずに余計なやり直しが発生したりといったトラブルが日常的に報告されており、VPJの調査では、情報共有の不備による手戻り作業がプロジェクト全体の工期に影響を与えるケースが増加していることが指摘されています【1】。

なぜ従来は避けられていたのに、今は困難になっているのでしょうか。その背景には、プロジェクト規模の拡大に伴う情報量の増大工期短縮の圧力、さらにアナログとデジタルが混在する過渡期特有の混乱があります。従来の「顔を合わせての確認」や少人数での意思疎通に頼っていた手法では、こうした環境変化に対応しきれなくなっているのです。

結果として、現場では典型的な悪循環となる場合があります。まず施工ミスなどの直接的影響が発生し、修正工事や追加発注といった対応が必要になります。その対応によって工程やコストに二次的な影響が及び、責任所在が曖昧になることで関係者間の信頼も揺らぎます。さらに、現場監督はクレームや調整対応に追われ、本来の管理業務に十分な時間を割けなくなります。このようにして情報共有の混乱が次々と波及し、現場全体の負担を増大させることがあるのです。

CDE(共通データ環境)とは何か

ここまで見てきたように、建設現場における情報共有の混乱は、単なる偶発的な問題ではなく構造的な課題です。この状況を抜本的に解決する手段として、近年注目を集めているのがCDE(Common Data Environment、共通データ環境)です。

CDEが注目される背景には、国土交通省が策定したBIM推進に向けたロードマップ(建築BIMの将来像と工程表ロードマップ)の存在があります。BIM活用を前提とした設計・施工・維持管理のデータ連携を支える基盤としてCDEが明確に位置付けられており、導入促進が政策的に後押しされています【3】。さらに海外では、英国政府が2016年以降の公共工事でBIM Level 2を義務化し、CDE活用を標準とした事例が広がりました。欧州各国でも同様の取り組みが進み、日本でもグローバル競争力を確保する観点からCDE導入の必要性が高まっています【2】。

CDEとは、建設プロジェクトに関わるすべての関係者が同じ環境で情報を共有・更新できる仕組みを指します。図面、仕様書、工程表、写真などを一元的に管理し、役割に応じたアクセス権限を設定することが可能です。変更履歴の自動記録や承認フローの可視化、リアルタイムでの更新通知といった機能により、従来は属人的に処理されていた情報管理を組織的に標準化することができます【7】。

重要なのは、CDEが単なるファイル共有システムではないという点です。ISO 19650(BIMの国際標準)でも、CDEは「情報を収集・管理・配布するためのオンライン環境」と定義されており、プロジェクト全体の情報フローを最適化する仕組みとして位置付けられています【6】。つまりCDEは、分散しがちな情報を統合し、関係者間のコラボレーションを促進するための中核的な仕組みなのです。

こうした枠組みを導入することで、現場で頻発する「どれが最新版か分からない」といった混乱を解消し、次章で述べるような具体的な改善策へとつなげていくことが可能になります。

現場でできる情報管理改善策

CDEの必要性は理解していても、「実際にどう始めればよいのか」と悩む現場は少なくありません。ここでは、日常の業務のなかで取り組める段階的な改善アプローチを紹介します。

まず基本となるのは、情報共有ルールの明文化と統一です。例えば「図面_建物名_階数_YYYYMMDD_v01」といった命名規則を設定するだけでも、関係者間で迷いなく最新版を特定できます。ファイルの命名規則、更新タイミング、承認フローなどをあらかじめ決めておくことで、関係者全員が同じ基準で情報を扱えるようになります。

次に有効なのが、CDEやクラウドベースの一元管理ツールの活用です。これにより、個人PCや記憶に依存していた情報を誰でも確認できる形に移行できます。図面のバージョンや承認状況を可視化すれば、経験の浅いメンバーでも正確な情報に基づいて作業を進められます【2】。

さらに、標準フォーマットの導入も効果的です。ファイル形式や命名規則を統一することで検索性と管理効率が大幅に向上します。こうした取り組みは、小規模プロジェクトから試験的に導入するのが安全です。小規模で効果と運用負荷を確認し、成功事例を蓄積したうえで段階的に拡大する方法が推奨されます【3】。

最後に重要なのが、リアルタイムでの情報管理です。変更や承認が発生した際に即座に関係者へ通知できれば、手戻りや工程遅延を未然に防ぐことができます。

これらを組み合わせれば、属人性を排除しつつ「情報が混乱しても品質を守れる現場」の実現に一歩近づくことができます。

CDEによって変わる建設業界の未来

CDEの普及は、建設業界全体に大きな変革をもたらすと期待されています。特に今後5年から10年の間に、業界の標準的な業務プロセスそのものが大きく進化すると予測されています【3】【4】。

建設業界では、BIMの普及とともにCDE(Common Data Environment、共通データ環境)の整備が進んでいます。国土交通省は、確認申請に対応する確認申請用CDEの構築を進めており、2026年春からはCDEを介して出力されたBIM図面(PDF)を用いた「BIM図面審査」が開始される予定です。その後、2029年春にはCDEを通じてBIMデータそのものを活用する「BIMデータ審査」へ移行する計画が示されており、業界全体でデータ連携と標準化が一層進展する見込みです。【5】

CDEによる変革は、5つの側面で具体的に表れます。

  1. 情報精度の向上によって施工品質が安定します。設計変更や仕様変更が即座に全関係者へ共有されるため、従来頻発していた情報の齟齬による施工ミスが大幅に減少します。
  2. 承認フローや進捗管理が可視化されることで、プロジェクト管理の効率化とコスト削減が可能となります。
  3. 設計から施工、維持管理に至るまでのライフサイクル全体で情報が活用され、建物価値の長期的な向上が期待されます。
  4. 地理的制約を超えた情報共有が可能になることで、海外案件や複数拠点をまたぐプロジェクトへの対応力が強化されます。
  5. CDEを基盤とした建設データの利活用が進み、予測保全や最適設計支援といった新たなビジネスモデルが生まれる可能性もあります。

このようにCDEは、単なる業務効率化の手段を超えて、建設業界全体の競争力と持続性を高める要となると考えられます。次章では、こうした未来を見据えつつ、現場での実践的な第一歩として何から始めるべきかを整理します。

まとめ—本格的な建設DXを目指す現場で重要なステップとしてのCDE活用

建設現場の情報共有における混乱は、個人の努力不足ではなく「情報管理の仕組み」に根本原因があります。ツールの非統一や属人化、データ分散といった構造的課題が、手戻りやコスト増を引き起こす悪循環が生まれることがあります。

CDE(共通データ環境)は、こうした課題を解決する有効な手段です。情報の一元化、履歴管理、リアルタイム共有といった仕組みによって、従来の属人的な管理から脱却し、プロジェクト全体での正確かつ効率的な連携を実現できます。これは単なるツール導入ではなく、現場DXを進めるための基盤づくりと言えます。

重要なのは「小さく始め、大きく広げる」ことです。まずは図面や資料の整理、承認フローの標準化といった身近な部分から着手し、徐々にCDEを導入していくことが持続的な改善につながります。

本記事で紹介したCDEは、建設業界全体に関わる包括的な枠組みです。しかし、実際の現場でフルスコープを導入するのは容易ではありません。そこで、CDEの考え方を一部機能に絞って実装したサービスの一つが「BuildApp 内装」です。

BuildApp 内装では、図面や資料をWeb上で一元管理し、常に最新データを共有できる仕組みを提供します。現場に従事される方が特別なITスキルを持たなくてもすぐに利用できます。まずは「CDEの一部を試す」感覚で取り組めるため、DX推進の選択肢の一つとして検討いただけます。

第一弾サービスとして「BuildApp 内装 建材数量・手配サービス」が提供されており、材料手配の効率化や属人化の解消に役立ちます。小さく始めて効果を確認し、将来的にはCDE全体へと拡大していく
——その実践的な入口として、ご検討ください。

「BuildApp 内装 建材数量・手配サービス」は、内装施工現場での活用に特化した詳細なBIMモデル(生産設計BIMモデル)をもとに、現場でそのまま使える実用的な資料を出力できます。

出典一覧

【1】VPJ「建設業界DX!建設業界の課題を解決し、業務効率化を実現するDXとは?」(2024年4月)
https://www.vpj.co.jp/column/detail.html?id=59

【2】BuildApp News「【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑥共通データ環境CDE-BIMsyncの説明(連載)」(2022年08月)
https://news.build-app.jp/article/6855/

【3】国土交通省「建築BIMの意義と取組状況について」(2023年12月)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001716005.pdf

【4】建設通信新聞「【BIM/CIM2024②】インタビュー 国土交通省BIM/CIM推進委員会委員長 大阪大学大学院工学研究科教授 矢吹信喜氏」(2024年11月)
https://www.kensetsunews.com/web-kan/1016231

【5】「建築BIMの社会実装に向けた取組について」(2024年7月)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001762769.pdf

【6】BuildApp公式「施工BIM導入事例|建設業界の生産性向上を実現する最新動向と導入ガイド」(2025年7月)
https://build-app.jp/column/1652/

【7】JACIC「CDE(共通データ環境)の定義」
https://www.cals.jacic.or.jp/CIM/cde/definition.html