コラム
2025年07月08日

建築BIMと確認申請の最前線|設計・施工を変えるフロントローディング戦略(2025年版)

なぜ今「確認申請 × 建築BIM」なのか?制度と業務の変化

建築業界において、確認申請と建築BIMの連携が急速に注目されている背景には、明確な制度変化があります。

国土交通省は2026年春から一部指定確認検査機関でBIM図面審査制度の試行を開始し、2027年度以降の全国展開を予定しています【1】【2】。

さらに2029年春からは、従来の図面審査に加えてBIMデータ審査への段階的移行が計画されています。この制度では、従来の2D図面に加えて、IFC形式のBIMモデルと属性情報を含む申請が可能になるとされています。

また、建築BIM加速化事業をはじめとする補助制度も整備されており、BIMソフトの導入費用や人材育成費に対して最大数千万円規模の支援が提供されています【4】【5】。これらの制度変化により、BIM活用は「検討段階」から「実装段階」へと移行しつつあります。

特に重要なのは、確認申請プロセス自体が根本から変わる可能性があることです。従来の図面ベースの審査から、3Dモデルと属性データを活用した審査へと進化することで、設計から施工まで一貫したデータ活用が期待されています【3】。

この変化に対応できる企業と対応が遅れる企業との間で、今後数年間で競争力の差が生まれる可能性があります。

確認申請が非効率な理由とは?現場で起きている課題

現在の確認申請業務には、根本的な非効率性が存在しています。

最も大きな課題は、意匠・構造・設備の各分野が個別に図面を作成し、申請時に初めて整合性を確認する点です。この結果、設計段階での見落としが申請時や施工段階で発覚し、大幅な手戻りが発生することが珍しくありません。

また、図面と構造計算書、申請書類の間で情報の重複入力が発生し、転記ミスや更新漏れのリスクが常に存在します。特に設計変更が発生した場合、全ての関連書類を個別に修正する必要があり、膨大な工数がかかります。

さらに、申請図面と施工図面の間にもデータの断絶があります。確認申請用に作成された図面を、施工段階で再度CADに入力し直すケースも多く、この工程で新たなミスが発生することもあります。

これらの課題により、プロジェクト全体の工期延長やコスト増加が発生し、建築業界全体の生産性向上を阻害する要因となっています。BIM活用による申請業務の効率化は、こうした構造的課題を解決する手段の一つとして期待されています。

建築BIMによる変革|設計・申請・施工のデータ接続と最適化

建築BIMを活用することで、従来の分断された業務プロセスを統合的に最適化することが期待されます。

意匠・構造・設備の各分野が統合されたBIMモデルを構築することで、設計段階から干渉チェックや納まり確認を自動化することが可能になります。これにより、従来は施工段階で発覚していた問題を設計段階で解決し、手戻りを削減できる場合があります【6】【7】。

確認申請においては、BIMモデルから直接申請用図面を生成することで、図面と構造計算、申請書類の整合性を自動的に保持することが期待されます。変更が発生した場合も、BIMモデルを修正すれば関連する全ての図面と書類が連動して更新されるため、転記ミスや更新漏れのリスクを軽減できる可能性があります。

施工段階では、確認申請で使用したBIMモデルをそのまま活用して、施工図の作成や数量拾い出し、工程管理を行うことが可能になります。これにより、設計意図の正確な伝達と施工品質の向上が期待されています【8】【9】。

さらに、BIMモデルには材料や部材の属性情報も含まれているため、コスト管理や維持管理段階での活用も見込まれています。

このように、建築BIMは設計・申請・施工・維持管理の全工程にわたって価値を提供する基盤技術となる可能性があります。

フロントローディング戦略|意思決定の前倒しが変える業務設計

建築プロジェクトにおける品質・コスト・納期の安定化には、「いつ、どこで、誰が判断するか」が大きな影響を与えます。そこで注目されているのが「フロントローディング戦略」です。これは、設計初期段階で意思決定に必要な情報を可能な限り集約し、後工程での手戻りや調整を減らすための業務設計手法です。

BIMを活用したフロントローディングでは、LOD(Level of Development:詳細度レベル)という概念が重要な役割を果たします【10】。

特にLOD300以上(実施設計・確認申請レベル)での統合モデルを活用すれば、以下のような効果が期待されます。

設計・施工の同時並行検討により、一部事例では従来2-3週間要していた現場調整期間を1週間程度に短縮できたとの報告があります。設計初期の段階で納まりや施工性を検証することで、発注精度の向上につながる場合があります。合意形成の早期化により、外部調整や手戻りの発生リスクを低減できる可能性があります。

フロントローディングは、設計業務を「描く」工程から「判断する」工程へと進化させる基盤となることが期待されています【11】

補助金と業務支援策|導入ハードルを下げる制度とアプローチ

設計・施工のDX化には一定の初期コストが発生しますが、制度面での支援策を活用することでそのハードルを下げることが可能です。

国土交通省が実施する「建築BIM加速化事業(2024年度)」では、以下のような支援が提供されています【5】【12】。

2024年度より面積・階数要件が撤廃され、小規模・改修案件も対象となりました。延床面積に応じた補助上限額が設定されており、例えば延床面積30,000㎡以上の場合、設計費最大3,500万円、施工費最大5,500万円の補助が受けられるとされています【12】。

対象には、IFC形式での設計モデル提出やCDE(共通データ環境)構築、BIMソフト、周辺機器、クラウド環境、人材育成費などが含まれています。

また、各BIMベンダー(Autodesk、Graphisoftなど)では、RevitやArchicadを用いた申請用図面作成、PDF整形の支援体制が整備されつつあります【2】。これらを活用することで、設計部門の負担軽減と品質確保を両立できる場合があります。

BIM導入においては、「制度活用×業務支援×段階的導入」の組み合わせが、無理のない実装の鍵となるとされています。

BIMモデル提出のための準備|セルフチェックリスト

BIM図面審査制度への対応に向け、申請図面とモデル整合性の確保が求められています。以下は提出要件を満たすための主要ポイントです【13】【14】。

BIM提出物の代表例

IFC4.0形式のBIMモデル(意匠・構造・設備を統合)、BIMで出力したPDF図面(属性情報50項目以上)、設計者チェックリスト(ガイドラインに準拠)、CDEへのアップロード(バージョン管理機能付き)が必要とされています。

なお、IFCについては現在主流はIFC2x3ですが、IFC4.0対応が推奨されつつあります。

自社状況のセルフチェック項目(Yes/No形式)

・IFC4.0形式での出力が社内で可能か
・意匠・構造・設備のBIMモデル統合手順があるか
・属性情報テンプレートが整備されているか
・モデルと図面の整合性確認フローが存在するか
・CDE(または代替クラウド)の運用ルールが明文化されているか
を確認してください。

さらに技術的な確認項目として、
・IFC出力時のエラー頻度は月10件以下に管理されているか
・属性情報の入力ルール(部材種別・寸法精度等)が標準化されているか
・モデル容量管理(500MB以下推奨)の運用があるか
も重要な確認ポイントです。

チェック項目でNoが複数ある場合は、小規模プロジェクトからの試験導入、外部パートナーの支援活用など段階的なアプローチが現実的とされています。

まとめ|設計・施工をつなぐBIM活用の第一歩を踏み出すために

BIMによる確認申請対応は、単なる申請図面作成の効率化にとどまりません。それは、設計・施工・行政手続きの間にある「業務の断絶」をデータ連携によってつなぎ直す取り組みです。

一部事例では、品質とコストの予測精度が高まり、リスクを前倒しで制御できたとの報告があります。設計初期における施工視点の検討により、納まりミスや資材ロスを削減できる場合があります。意匠・構造・設備のBIM統合によって、審査対応と現場の両方に対応できるデータ基盤が整う可能性があります。

重要なのは、「完璧なBIM化」ではなく、「目的に応じた段階的導入」です。必要な部分から始め、制度対応・社内連携・施工現場支援の観点から少しずつ最適化を進めていくことが、BIM導入成功への近道となるとされています。

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出典一覧

【1】いよいよ2026年春開始 ! オートデスクと備える「BIM図面審査」 https://bim-design.com/event/ondemand/bim-drawing-review/

【2】BIM確認申請 – Graphisoft  https://graphisoft.com/jp/bimkakuninshinsei

【3】図面審査セミナー資料(PDF) https://bim-design.com/assets/pdf/seminar_bim_drawing_review.pdf

【4】建築BIM加速化事業とは?概要から手続きの方法  https://cad-junction.essencimo.co.jp/2024/08/20/

【5】建築業界を変革!建築BIM加速化事業とIT導入補助金  https://graphisoft.com/jp/bimcolumn/section3

【6】Autodesk BIM活用事例集(PDF) https://bim-design.com/uploads/Final_BIM_Case_Study_Collection_2021_ja.pdf

【7】職人のBIM活用実践ガイド https://syokunin.work/column/craftsman-building-information-modeling-guide/

【8】施工におけるBIM活用の現状(建設マネジメント技術 PDF) https://kenmane.kensetsu-plaza.com/bookpdf/160/fa_03.pdf

【9】清水建設 BIM活用(ニュースリリース) https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2020/2019050.html

【10】BIM開発レベル(LOD) | オートデスク https://www.autodesk.com/jp/solutions/bim-levels-of-development

【11】建築BIM加速化事業(2023年度補正)60億円計上 https://built.itmedia.co.jp/bt/articles/2312/20/news109.html

【12】建築BIM加速化事業について(国土交通省公式PDF) https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001716006.pdf

【13】BIMガイドライン(LOD定義・IFC仕様) https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001853623.pdf

【14】建築確認における BIM 図面審査ガイドライン(国交省) https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001755042.pdf