施工BIM導入事例|建設業界の生産性向上を実現する最新動向と導入ガイド

施工現場の業務効率化や標準化が急務となる中、BIM(Building Information Modeling)の「施工段階での活用=施工BIM」が注目を集めています。一方で、導入率に対して「活用できている」企業は約39%にとどまるという調査結果も【1】。
本記事では、制度の後押しや定量効果の実証、導入事例、課題と解決策、補助金制度の活用方法、2025年以降の展望まで、施工BIMの実践に役立つ情報を事例を基に体系的に整理しました。
【目次】
施工BIMとは何か?設計BIMとの違いと現場DXとの関係性
BIM導入率は全体で58.7%に達する一方で、実際に施工現場で「使いこなせている」と答えた企業はわずか39%という現実【1】【2】。こうした背景の中、「施工BIM」は単なる導入から一歩進み、実践的な活用が求められています。
2024年度には、建築BIM加速化事業に60億円の補正予算が計上され、ソフトやCDE環境の導入、人材育成までを幅広く支援【3】。対象は小規模現場・改修工事にまで広がり、サブコンや中小企業にも現実的な導入機会が開かれています。
施工BIMとは、設計段階で作成されたBIMモデルをもとに、施工図作成、資材拾い出し、納まり確認、干渉チェック、施工計画検討といった実務プロセスで活用するアプローチです。設計BIMが「図面作成の効率化」に主眼を置くのに対し、施工BIMは「現場作業の標準化と省力化」に貢献することが最大の特長です。
この考え方は、現場DXの文脈と直結しています。属人化されたノウハウを型化し、業務の標準化・共有・トレーサビリティを高めることで、品質のばらつきを抑え、業務効率を底上げする。施工BIMは、まさに「現場の共通言語」として、DX化の基盤インフラとなりつつあるのです。
施工BIMの導入メリットとは?
施工BIMの導入によって、建設現場では以下のような具体的な効果が報告されています。
- 干渉チェックによる手戻りの削減
設計段階で検出されなかった納まり不良や機器配置の衝突を、施工BIM上で事前に可視化・修正。国交省モデル事業では手戻り工数が最大50%削減された事例もあります【4】。 - 積算・施工図の工数削減
BIMモデルから直接部材数量を算出することで、手作業による拾い出しや再入力の工程を削減。積算作業時間が30~50%削減されたケースも報告されています【5】。 - サプライチェーンとの連携強化
施工図・数量情報をもとに、製造業者や協力会社と連携。スチールドアの作図・製作期間を最大50%短縮した事例があります【6】。 - 業務標準化と属人性の排除
担当者ごとの個別管理から脱却し、「誰でもわかる・引き継げる」情報共有が可能になります。これにより現場での判断や調整作業の負荷も軽減されます。 - CO₂排出量や廃材ロスの削減
数量の精度向上や工程最適化により、建材の無駄を削減。一部のLCA実証では4〜6%のCO₂削減効果も報告されています【7】。
こうしたメリットは、「単なる図面作成」ではなく、データを活用して業務を最適化するインフラとしてのBIM活用が前提となっています。
成功・失敗事例と導入効果(ROI)
施工BIMの導入は、現場の業務効率や品質向上に大きな効果をもたらす一方、体制構築や教育が不十分な場合にはROI(投資対効果)が十分に得られないリスクもあります。
成功事例(効果を最大化できたケース)
- 国土交通省モデル事業(RC造・S造)
干渉チェックと属性情報の整備により、施工労務工数を25%削減、積算業務時間を最大50%削減、品質指摘事項を半減【8】。 - 東亜建設工業株式会社×野原グループ株式会社
BuildAppを活用し、スチールドアの見積・作図・製作期間を最大50%短縮。業者間の連携精度も向上【9】。
失敗事例(期待したROIが得られなかったケース)
- BIMモデルの肥大化により操作が不安定
組織横断でのモデル設計が不十分なまま拡張を続けた結果、現場での運用が困難に。 - 現場チームとBIM部門の連携不全
モデルが作成されても、実際の現場担当者が使いこなせず、施工フローに反映されないまま形骸化。 - 教育体制の不備による属人化
推進担当が退職後に運用が止まり、BIMの活用が一時停止。長期的なROIが未達に終わった例もあります【10】。
成功のポイント(導入ROIを高める要素)
- 段階的な導入と小規模プロジェクトでの成功体験
- 部門をまたいだ横断的な体制構築
- 活用目的と評価指標の明確化(例:積算工数/施工手戻り率)
これらの事例が示すのは、「BIMツールを導入すること自体」ではなく、現場に根差した運用と評価の枠組みが導入効果を左右するという点です。
補助金を活用した導入事例と制度の概要
施工BIMの導入を現実的に進めるうえで、国の制度による支援策の活用は欠かせません。特に中小企業やサブコンにとって、初期コストの壁を越える手段として「補助金制度」の存在は重要です。
建築BIM加速化事業(2024年度まで)
- 補助率:最大2/3(ソフト・CDE構築・モデル作成・教育支援など)
- 補助対象:下請企業・小規模案件も対象に拡大
- 対象経費:BIMソフト、CDE環境、PC・周辺機器リース、人材育成費用など
- 2024年度補正予算:総額60億円【11】【12】【13】
また、面積・階数制限が撤廃されたことで、改修工事や中小規模の施工案件でも補助が受けられるようになりました。
建築GX・DX推進事業(2025年度~)
- 建築BIM加速化事業の後継制度
- BIM活用型/LCA実施型の2本立て
- BIMモデル作成費の1/2を補助(代表事業者登録制)【14】
この制度では、ライフサイクルCO₂削減(LCA)との連携も重視されており、施工BIMを活用した環境性能の可視化・管理も対象となります。
実証事例:補助金活用で導入効果を可視化
- 東亜建設工業株式会社×野原グループ株式会社(BuildApp)
「建築BIM加速化事業」を活用し、スチールドアの見積・作図・製作期間を最大50%削減【9】。
さらに、CO₂排出量削減・廃棄物削減にも寄与し、GX型施策としての実効性も検証済み。
導入時の実務ポイント
- 申請は年度単位、募集期間に注意
- IT導入補助金との併用不可。要件整理が必要
- 補助対象の明確化(図面作成・モデリング・教育含む)
制度は年ごとに微調整されるため、最新情報の確認と早期の準備が導入成功のカギを握ります。
よくある導入課題とチェックリスト
施工BIMの導入が進む一方で、「導入はしたが活用が進まない」「社内に定着しない」といった声も少なくありません。その原因は、技術的な難しさ以上に、組織体制や連携構築の不備にあるケースが多いのです【15】。
主な課題とその解決策
- 課題①:モデルの肥大化・データ過多
・IFC形式の活用
・LOD管理の徹底
・モデリングルールの標準化【16】 - 課題②:BIM人材のスキル格差
・教育体系の整備(段階別研修・OJT支援)
・外部パートナーのアウトソース活用 - 課題③:操作性の難しさ・ツールの分断
・UI設計に配慮したBIMビューアの導入
・CDE環境での統合管理【17】 - 課題④:既存CADとの二重作業
・社内フローをBIM前提に転換
・モデル先行の業務プロセス構築 - 課題⑤:組織内の温度差・目的の不明確さ
・導入目的と活用目標の可視化
・部門横断の推進チーム設置【18】
こうした課題に向き合うには、「まず小さく始めて成功体験をつくる」ことが重要です。全社一括導入ではなく、小規模プロジェクトや特定業務から段階的に展開するアプローチが現実的です。
自社の導入準備チェックリスト(Yes / No)
- BIM導入の目的・活用範囲が明文化されているか?
- 社内にBIM活用の推進チーム(横断組織)があるか?
- 使用ツール・形式(IFCなど)が現場と共有されているか?
- LODや分類コードなどのモデル仕様ルールが定義されているか?
- 関係者間でモデル共有・運用ルールが統一されているか?
⇒導入準備の状況に応じて、段階的な導入・教育体制の整備からの着手を推奨します。
2025年以降の施工BIMと現場DXの展望
2025年は、施工BIMと現場DXにとって大きな転換点となる年です。制度・技術・業界構造の三位一体で変化が加速し、BIMは「選択肢」から「必須インフラ」へと移行する局面を迎えています。
制度面:義務化・補助金制度の転換
- 2025年度から「BIM図面審査」の試行が開始され、2026年春には本格運用、2027年度には全国展開が予定されています【19】【20】。
- 申請時に提出するBIMモデルは、IFC4.0形式・属性情報50項目以上・LOD300以上などの要件を満たす必要があります【21】。
- 同年度からは「建築GX・DX推進事業」がスタート。LCA(ライフサイクルCO₂削減)対応やデジタル施工に対する補助制度が強化され、BIMモデルの整備はその基盤技術として位置づけられます【14】。
技術面:ツール連携とリアルタイム性の向上
- ICT建機との連携により、BIMモデルをもとにした施工自動化や施工精度の向上が進みつつあります。
- AR/MRによる現場支援も現実化しており、施工BIMデータをそのままHMDやタブレットに投影する取り組みが広がっています【22】。
- AIによる設計変更提案・干渉解決の自動化など、BIMを活用した知的判断支援も進展しています。
実務面:標準化とサプライチェーン連携の推進
- 設計・施工・製造・維持管理までを貫くBIMベースの情報共有(CDE環境)が業界標準となりつつあります。
- サプライチェーン各社のBIMデータ接続により、トレーサビリティや受発注の効率化も進行中です【23】。
- 「BuildApp」のようにBIMモデルと内装建材の受発注・施工工程を連携させるソリューションの需要も拡大しています。
これらの制度・技術・実務の動きは、施工BIMを「基盤インフラ」として業界全体で活用していく未来像を強く示唆しています。今後は、標準化・省人化・持続可能性の実現に向けて、BIMを軸とした現場DXの推進が不可欠です。
まとめ|施工BIMの現場導入を進めるために
施工BIMは、単なるデジタルツールではなく、属人化を超えて現場の標準化・再現性を支える「共通インフラ」です。設計BIMが「図面・データを描く」フェーズの生産性を支えるのに対し、施工BIMは「現場で判断・行動する」フェーズの業務改善を加速させる基盤となります。
その一方で、導入現場では以下のような課題も共通して見られます:
- 目的や評価指標が曖昧なままの導入
- 推進体制が整備されていない
- ツールだけ導入し、ルールや教育が不十分
こうした課題に対しては、以下の3つの実践が効果的です【15】【16】【17】【18】:
- 段階的な導入(小規模プロジェクトから成功事例をつくる)
- 部門横断的な推進体制の構築
- 自社業務に合わせた教育・運用ルールの整備
2025年度以降は、補助金制度や制度整備、技術インフラが揃う導入の好機です【14】【19】【20】。
まず取り組むべきは、自社が「解決したい課題」と「BIMで解決できる課題」の重なる領域を見極めること。その上で、最初から完璧を求めるのではなく、「実務に根差した小さな一歩」から始めることが、持続可能な現場DXの第一歩となります。

詳細はサービスページをご覧ください。
出典一覧(出典番号付き)
制度・補助金関連
【11】国土交通省「建築BIM加速化事業」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/bim.html
【12】国交省GX・DX推進事業(2025年〜)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_fr_000201.html
【13】建築BIM加速化事業 2024年度継続決定
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/bim.html
【14】建築確認制度におけるBIM図面審査対応
https://makehouse.co.jp/labo/knowhow-design/92-2/
【19】国土交通省BIMガイドライン
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001878599.pdf
【20】2025年度〜2027年度制度計画資料(国交省)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001878599.pdf
【21】国交省「建築確認におけるBIM図面審査ガイドライン」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001853623.pdf
BIM活用事例・導入効果
【4】【5】【8】国交省「RC造・S造におけるBIM実証」
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001351042.pdf
【6】【9】東亜建設工業株式会社×野原グループ株式会社 プレスリリース
https://nohara-inc.co.jp/news/release/8159/
【7】内閣官房「LCA実施とBIMの連携」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/building_lifecycle/dai1/siryou3.pdf
技術動向・将来展望
【22】BuildApp News「ICT建機・AR活用の動向」
https://news.build-app.jp/article/34576/
【23】BuildApp News「サプライチェーン連携」
https://news.build-app.jp/article/31290/
普及率・課題・導入状況
【1】【2】【3】日建連「施工BIMのスタイル 2024」
https://www.nikkenren.com/kenchiku/bim/pdf/zuhan/bimstyle_2024.pdf
【10】Arent調査:施工現場での活用状況
https://note.com/arent3d/n/n8122c13980f8
【15】【16】【17】【18】BuildAppNews「施工BIMのよくある課題と対策」
https://news.build-app.jp/article/31290/
※ 各出典は2025年5月時点で確認された一次資料・公式情報に基づいています。